強制執行を行うときに債務者の財産が分からないときのための制度が財産開示手続です。
しかし、財産開示手続は無視されることも多く、無意味であると言われていました。この記事では、財産開示手続とはどのようなものか、なぜ実務上はあまり利用されなかったのかを解説します。
また、財産開示手続は2020年4月施行の法改正が予定されています。
どのような点で財産開示手続が改正されるのか、また改正後はどのように変わるのかを実務的な観点から解説します。なお、改正後の財産開示手続を利用した債権回収は以下の記事をご覧ください。
(参考)【2020年最新版】改正後の財産開示手続を利用した債権回収の方法
財産開示手続きで裁判所に出頭しなかったことを理由として神奈川県警松田署が2020年10月20日に書類送検をしたとの報道がありました。民事執行法改正後に全国でも初めて検挙された事例です。今後は財産開示手続きに違反したことで現実に刑事罰が科される可能性があると考えられます。警察の協力を得て、財産開示手続きを実効性があるものとしたいというメッセージを感じます。今後は財産開示手続きが無視される事例は少なくなるものと思われます。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
1. 財産開示手続とは
財産開示手続とは、強制執行の実効性を確保するために裁判所が債務者を呼び出して、自分の財産について答えさせる手続です。
強制執行をするためにはどのような財産を差し押さえるかを特定する必要があります。
そのため、そもそも債務者が財産を持っているか、どのような財産があるかが分からなければ強制執行ができません。
そこで、強制執行をしやすくするために平成15年民事執行法改正により財産開示手続ができました。
財産開示手続では裁判所を利用して債務者に財産情報を提供して貰うものであり、強制執行の実効性確保が期待されていました。
2. 財産開示手続が無意味な理由
しかし、財産開示手続は無意味であると言われており、実務上はあまり利用されていませんでした。一番の理由は財産開示手続を行っても、債務者が無視するケースが多かったからです。
2.-(1) 財産開示手続の利用実績から見る実務上無意味とされた理由
平成15年にできた財産開示手続ですが、利用実績は年間500件~1000件未満に留まっており、ほとんど利用されていません。
(参考)民事執行法部会資料2「債務者財産の開示制度の実効性の向上に関する検討」
平成25年 | 平成26年 | 平成27年 | |
申立件数 | 979件 | 919件 | 791件 |
開示件数 | 322件(34.4%) | 331件(33.4%) | 284件(34.8%) |
どのような財産があるか分からないため強制執行ができないという法律相談は非常に多いです。とくに養育費の未払いは社会的な問題ともなっています。
このように強制執行ができず困っている人は全国的に非常に多いにも関わらず、年間1000件未満という利用実績はごく少数と言えるでしょう。
また、約1000件程度の申立件数に対して、財産開示がなされた件数の割合は約1/3程度になっています。
そもそも、ほとんど利用されていないにも関わらず、利用した場合でも3件に1件程度しか財産開示がなされていません。このように実務において財産開示手続はほとんど無意味であると考えられていました。
2.-(2) 財産開示手続を無視されることが多かった
このように財産開示手続が無意味とされていたのは無視されることが多かったからです。
そもそも財産開示手続は債務者を強制的に裁判所に連れてくることができません。例えば、破産手続であれば裁判所が強制的に連れてくることができます(破産法38条)。
同じ裁判所の手続であっても、破産手続と異なって財産開示手続は強制的に債務者を連れてくることができないのです。
また、財産開示手続を無視した場合や嘘をついたような場合は債務者にペナルティの規定がありましたが、30万円の過料とされていました(現行民事執行法206条)。
債務者が数百万円のお金を払っていないなような場合では30万円の過料は軽すぎますし、そもそも現実的に過料の支払いを求められることはほとんどありません。
このように、裁判所に強制的に連れてくることができず、無視してもほとんどペナルティがないも同然であったため、財産開示手続は無視されることが多く無意味とされたいたのです。
3. 財産開示手続の改正でどう変わる?
このように過去においては利用されていなかった財産開示手続ですが、2020年4月から改正がされます。
この改正によって、今後は財産開示手続が利用しやすくなります。今回の法改正で財産開示手続が変更されるのは以下の2点です。
- 申立権者の範囲拡大
- 懲役・罰金導入による罰則強化
3.-(1) 申立権者の拡大
現行法では財産開示手続を利用できる申立権者から、仮執行宣言付判決等、執行証書、又は確定判決と同一の効力を有する支払督促が除かれていました(現行民事執行法197条1項)。
執行証書とは、分かりやすく言えばお金を支払う旨を記載した公正証書のことです。例えば、養育費を支払うことを公正証書にしたとしても財産開示手続が利用できなかったのです。
しかし、財産開示手続の改正によって、申立権者を除外する規定が削除されることになりました(改正民事執行法197条)。
つまり、強制執行ができる人であれば、財産開示手続が誰でも利用できるように申立権者が拡大されました。
3.-(2) 罰則の強化:財産開示手続の無視で前科がつくことも
また、財産開示手続を無視して出頭しない、財産情報を話さない又は嘘をついたような場合のペナルティとして刑事罰が科されることになりました(改正民事執行法213条)。
具体的には、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金がかされることになります。
刑事罰があると言うことは財産開示手続に協力をしなければ前科がつく可能性があるということです。
今までは財産開示手続を無視されるケースも多かったですが、強力なペナルティができたことで無視されるケースは減るのではないかと思われます。
4. まとめ:財産開示手続は無視されたが、改正によって有効な手段になることが期待できる
強制執行によって債権回収を図る場合には債務者の財産を調査する必要がありました。今までは財産開示手続はあるものの無視されることは多く、実務上はほとんど利用されない無意味な制度でした。
しかし、2020年4月に実施される財産開示制度の改正によって刑事罰(6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金)が導入され、今後は無視されるケースも減ることが予想されます。
債権回収を行うときに今後は財産開示手続が有効な手段となることが期待されます。改正後の財産開示手続を利用した債権回収方法については以下の記事で詳しく解説しています。