債権回収の手段として仮差押えを行うことがあります。
仮差押えは法的措置の1つですが、訴訟と異なり数日から1週間程度で結論が出るなどのメリットがあります。本記事では仮差押えとは何か、仮差押えの効力や手続きの流れを分かりやすく解説します。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
1. 仮差押えとは
債権回収の手段として訴訟を起こして、判決で債権の支払いを命じてもらうようにする方法があります。
しかし、訴訟を起こしてから判決までは半年から2年は時間を要し、その間に相手方に財産隠しなどをされる可能性があります。確実に債権回収をするためには訴訟だけでは不十分です。
そこで、訴訟を起こして判決を得る前に予め相手方の財産を確保する制度が仮差押えの手続きです。
1.-(1) 仮差押えとは
仮差押えは、訴訟を起こして判決が出ていない段階でも、債務者の財産の処分を禁止する手続きです。
訴訟の途中で負けそうだと債務者が感じると、財産をとられないように処分してしまうことがあります。
債務者が財産を隠したり処分すると勝訴判決を得たとしても強制執行をすることができません。
そこで仮差押え手続きを行うことができます。仮差押え命令の申立てを行うと裁判所が必要性を審査し、仮差押え命令を出します。仮差押え命令が出されると債務者は自由に財産処分ができなくなります。
1.-(2) 仮差押えの事実上の効力
仮差押えは法律上は債務者の財産処分を禁止するものであり、債権回収のためには改めて訴訟提起して勝訴判決を得る必要があります。
しかし、現実には仮差押えが認められると債務者が観念して任意の債権支払いを行うこともあります。
- 仮差押えが認められる以上は訴訟になっても勝訴の見込みがあること
- とくに預貯金債権の仮差押えがされると通常業務に支障が生じること
- 法的措置によって債権回収の本気度合いが伝わること
仮差押えは、簡易・迅速に結論が出る上に事実上債権支払いを促す効力もあるため非常に便利で強力な手段であると言えます。
1.-(3) 仮差押えの対象物
債権回収の実務上、仮差押えは不動産、預貯金債権、及び売掛金債権などを対象として行います。
相手方が不動産を所有しているときの債権回収は容易です。
不動産は自宅や事務所の登記を確認すれば比較的権利関係を把握することが簡単ですし、すぐには処分することができません
従って、速やかに仮差押えを行って不動産の処分を禁止してしまえば債権回収を行うことができます。
他方で、預貯金債権や売掛金債権の仮差押えは少し困難です。
預貯金債権・売掛金債権はそもそも調査が難しいことが少なくありません。日ごろから取引銀行や取引先をさりげなく確認しておくべきでしょう。とくに預貯金債権の仮差押えでは、銀行名だけでなく支店名も必要となるので注意しましょう。
また、預貯金や売掛金は日々変動があります。大口の入金があるときを狙って預貯金債権の仮差押えをするなど慎重な検討が必要となります。
2. 仮差押えの流れや期間
2.-(1) 仮差押命令の申立書
仮差押え処分を行うためには、まずは裁判所に対して仮差押えをするよう申立書を提出しなければなりません。
申立書には「保全すべき権利」と「保全の必要性」の記載が必須です。
「保全すべき権利」というのは、債権者が債務者に対して有している権利の内容です。どういう契約関係に基づいて、自身がどのような債権を持っているかを説明します。
そして「保全の必要性」には、なぜ仮差押えを求めるのか理由を記載します。
申立書のポイントは、保全すべき権利や保全の必要性を「証明」する必要はないことです。仮差押えの申立て段階では「疎明」と言って、裁判官にこちらの主張が確からしいと思わせることができれば足ります。
もちろん十分な事実関係の調査や法的な検討を行う必要はありますが、可能な限り有利な事実や主張を行うことができれば仮差押えが認められる可能性があります。
仮差押えは好きな裁判所に申し立てられるわけではありません。担当する裁判所が決まっています。基本的には、債務者の住所や本店所在場所がある地方裁判所に手続きを行うことになります。
しかし、仮差押えの対象物がある裁判所(不動産を対象とするときは不動産の所在地、預貯金債権であれば銀行の所在場所の裁判所)に申し立てることも考えられます。
どこの裁判所に申立てを行うのが良いかは具体的事案ごとに検討をするべきでしょう。
2.-(2) 債権者面接
仮差押命令申立書を提出すると、次に裁判官が仮差押えをするか審査をします。
このとき債権者面接が行われることがあります。債権者面接は、「保全すべき権利」と「保全の必要性」を裁判官が債権者と直接会って審査するものです。
仮差押えの申立書がきちんと記載していれば、債権者面接は基本的に原本書類等の確認を行うだけなのでご安心ください。
債権者面接で最も重要なのは担保決定です。担保決定は、裁判官が仮差押えを認める場合に納めるべき担保金の金額や支払期日を定めるものです。
2.-(3) 担保金の支払い
仮差押えは判決で債権の存在を確定する前に債務者の財産処分を禁止する強力な手段です。
もし債権回収の訴訟で債権がないと判断されたときは、債務者は本来自由に処分できるはずの財産処分を禁止されたことになり、場合によってはそのために損害を負うことがあります。債務者が損害を負ったときの担保として、債権者は担保金を支払う必要があるのです。
また、担保金はそれなりに高額であるため、誰でも簡単に仮差押えの手続きを行うことはできません。担保金の存在は仮差押えの利用に一定の歯止めをかける事実上の効果もあります。
債権者面接において担保金の金額が決定されますが、担保金は明確な基準があるわけではなく個別事案ごとに判断されます。具体的には、保全すべき権利がどれぐらい認められそうかや、仮差押えの対象物の性質によって異なります。
一般的には、不動産の仮差押えで不動産価額の15~20%程度、債権の仮差押えで債権額の20~30%程度となります。
債権者面接で担保金の金額を指示されると決定された担保金を支払期日までに納めます。
納める方法としては2つあり、法務局に供託して供託書正本を裁判所に提出する方法と、銀行と支払保証委託契約を結んだ上で契約書を裁判所に提出する方法です。
但し、実務上はほとんど前者の供託手続によって担保金を納付します。
3. 仮差押えの期間やタイミング
3.-(1) 仮差押えが認められるまで
仮差押えのメリットは、訴訟手続と異なり簡易・迅速に判断がなされる点です。
申立書の作成をタイムリーに作成できるかにもよりますが1週間程度で結論が出ることもあります。
また、不動産や預貯金債権の仮差押えを出すに当たって債務者の反論や言い分を聞くことはありません。なぜなら、仮差押えは、債務者の財産隠しを防ぐためなので、債務者に手続がなされていること自体が通知されないからです。
3.-(2) 仮差押えの効力が生じるタイミング
裁判所が仮差押えを認めたとして、その瞬間から効力が発生するわけではありません。仮差押えの対象となるものによって効力が生じるタイミングが異なります。
対象が不動産の場合には、不動産の仮差押えの登記が完了した時から効力が生じます。
対象が預貯金債権の場合は、裁判所から「債権仮差押決定正本」が金融機関に対して送付されます。この正本が金融機関に到達し、内部の担当者が口座の凍結などの処理を完了した時点から、仮差押えの効力が生じることになります。
4. まとめ
この記事では仮差押えの効力、手続きや期間を簡単に解説しました。
仮差押えは、財産処分を禁止するものですが、事実上は仮差押えがされると債務者が観念して任意に債権の支払いをする事実上の効果も期待できます。
また、仮差押えは、早ければ1週間程度で行うことができ、債務者の反論等を経ずに結論がでます。訴訟と異なり簡易・迅速に結論が出る点も特徴と言えるでしょう。
但し、仮差押えを行うためには担保金の用意が必要ですし、仮差押えの申立書においてこちらの主張が認められるように裁判官を説得できる内容を記載する必要があります。
仮差押えは非常に強力な手段ですが、事案に適合するかや申立書の記載内容等を慎重に判断する必要があります。
このような仮差押えの特徴を踏まえて貴社の債権回収に役立てていただければと存じます。