強制執行による債権回収の種類・メリットや注意点を解説

強制執行は最終的な債権回収の手段です。貸付金や工事代金などを債務者が支払ってくれない場合は、債務者の不動産や預貯金に対して強制執行をすることで債権回収ができます。この記事では強制執行で債権回収するために知っておきたい知識を弁護士が分かりやすく解説します。

(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

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強制執行とは

 

強制執行=裁判所による強制的な債権回収

強制執行とは、債権者の申し立てにより、裁判所が債務者の財産を差し押さえて換金し、債権者が債権を回収できるようにする手続きのことです。

つまり、裁判で勝ったのに債務者がお金を払わないような場合に裁判所が強制的にお金を回収してくれる制度のことです。

債務者の不動産・預貯金が分かっている場合には、強制執行によって債務者が拒否しても債権回収ができます。債権回収の最後の手段として最も有効な制度が強制執行です。

 

強制執行の種類

強制執行は債務者のどのような財産を対象とするかによって種類が分かれます。強制執行の対象となる財産は、主に不動産、債権、動産の3種類です。とくに不動産への強制執行と、債権のうち金融機関に対する預貯金債権への強制執行は、債権回収の実務でよく利用されます。

 

不動産執行とは

債務者の不動産に対する強制執行を不動産執行と言います。債務者の土地・建物を差し押さえて、競売手続きで強制的に売却することで売却代金から債権を回収します。

たとえば、債務者が個人であれば自宅、債務者が法人であれば自社ビルなどを対象とする不動産執行をすることが考えられます。

 

債権執行とは

債務者の債権に対する強制執行を債権執行と言います。債務者が都合よく債権を保有しているのか疑問に思われるかもしれません。

しかし、例えば、勤務先に対する給料や銀行に対する預貯金などは債権です。給料の差押えや預貯金の差押えと言うと身近に感じられるかもしれませんが、これが実は債権執行です。債権執行は競売等の手続きが不要であるため、可能であれば是非使いたい債権回収の手段です。

MEMO

預貯金への債権執行では債権執行に基づく差押命令が届いた日の残高が対象となります。これに対し、給料債権への債権執行では、一度差押えを行えばそれ以後の給料も対象となるという違いがあります。

 

動産執行とは

債務者の動産に対する強制執行を動産執行と言います。動産は一般的には換価しても価値が低いため十分な債権回収を図ることは難しいです。

しかし、骨董品・美術品・宝石類・現金などが自宅にあることが分かっている場合には動産執行をすることが考えられます。また、法人が債務者である場合は在庫や機械類を対象とした動産執行をする場合もあります。

MEMO

機械類が処分されると法人としては事業継続が困難になります。そのため動産執行をされると、何とか金策をしてでも支払いをしなければならないというプレッシャーが働きます。そのため動産執行をきっかけに任意の支払いがなされるケースもあります。

 

債権回収において実務上よく使われる強制執行である不動産執行と債権執行について、メリット・デメリットを説明します。

 

不動産執行のメリット・デメリット

不動産執行のメリット

 

高額な債権回収が期待できる

一般的に不動産は高額です。債務者の高額な不動産があれば、不動産執行によって高額な債権でも回収することが期待できます。一度の強制執行手続きによって、債権全額を回収したいような場合にはおすすめの方法です。

 

不動産は隠しにくい

強制執行をするためには対象財産を調査する必要があります。現金や預貯金は債務者が隠すことがありますが、不動産を隠すことは困難です。不動産は動かすことができないですし、登記を確認すれば債務者が所有しているかが簡単に分かります。

比較的調査が簡単であることが不動産執行のメリットと言えるでしょう。

 

強制競売と強制管理を選択できる

不動産執行では強制競売として不動産を売却して得た代金から債権を回収することができます。それだけでなく債務者が所有する不動産から賃貸収入などを得ている場合は強制管理として家賃収入や駐車場収入などの賃料から債権を回収することも可能です。

強制競売では十分な債権回収ができるような高値で売却できるか分かりません。このような場合は強制管理によって賃料から債権回収をすることも選択できるのがメリットです。

MEMO

強制管理を選択できるのは収益物件です。債務者の自宅を対象とするときは強制競売しかすることができません。

 

不動産執行のデメリット

 

手続きにかなりの時間がかかる

不動産執行のデメリットは、不動産調査および評価、競売手続きなどが細部にまでわたるため、かなりの時間がかかるという点です。

 

抵当権者がいる場合は回収できないことがある

また、高額な不動産なら抵当権が設定されていることも多いので、競売して換金ができたとしても、多くを抵当権者が優先的に持っていってしまうこともあります。つまり、申し立て手続きをした債権者が十分な代金の回収が行えないという事態を招いてしまう恐れもあるのです。

 

申立時に高額な予納金が必要である

不動産執行をする場合には80万円から200万円もの予納金が必要となります。予納金は最終的に不動産の売却代金から返還されますが、もし売却代金が少なかったような場合は費用倒れになる可能性すらありません。申立て時に高額な予納金が必要であることは不動産執行のデメリットと言えるでしょう。
(参考)裁判所HP:不動産競売事件の申立てをされる方へ

なお、強制執行の費用については下記記事も参考にしてください。
(参考)強制執行の費用について

MEMO

不動産執行はメリット・デメリットもいずれも多い強制執行の方法です。債権回収のために不動産執行をするべきか否かは弁護士に相談した方が良いでしょう。

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債権執行のメリット・デメリット

債権執行のメリット

債権執行は、債務者名義の預貯金、給料、貸金、売掛金などの債権を差し押さえることをいいます。債権執行の場合、個人の給料債権であれば勤務先の会社から、預貯金債権であれば金融機関から支払いを受けることになります。

支払いを受けるのが債務者ではなく第三者であるため、感情的に妨害をされたりする可能性は低いと言えるでしょう。とくに預貯金の債権執行は支払いをする金融機関は手続きになれています。そのため、債権執行は、不動産回収よりも早くスムーズに債権回収できるのがメリットです。

 

債権執行のデメリット

 

債権の調査が必要である

他方で、債権執行を行うためには債務者の債権を調査することが必要です。不動産と異なり債権の有無は簡単には分からないことも少なくありません。例えば、どの金融機関に預貯金があるかが分からないような場合もあります。

 

給与債権には上限がある

また、債権執行のうち給与を差し押さえる場合は上限が設定されています。具体的には毎月の給与の四分の一の額しか回収できないのです。

債務者の勤務先は比較的調査が容易ですし、一度手続きをすればその後の給料も対象となります。他方で、1/4ずつしか債権を回収できないというデメリットもあるのです。

 

強制執行で債権回収をするときの注意点

 

最後に強制執行で債権回収をするときの注意点を簡単に解説します。

 

強制執行をするには債務名義が必要

強制執行をするには債務名義が必要です。債務名義とは債務者、債権者、請求権の存在と範囲を明記した公文書をいいます。具体的には判決・和解調書・執行証書(公正証書で作られたもの)などが対象となります。

従って、裁判で勝訴した又は和解が成立した場合や、しっかり公正証書を作成したような場合にのみ強制執行で債権回収ができます。貸したお金を返してくれない、工事代金を支払ってくれないなどの場合に、いきなり強制執行で債権回収をすることはできないので注意が必要です。

 

強制執行の対象となる財産を探す

たとえば、債務者が200万円を支払う旨の判決を勝ち取ったとしても、裁判所が債務者の200万円相当の財産を調査して強制執行をしてくれるわけではありません。強制執行で債権回収をするためには、債務者のどの財産を対象とするかを特定して申立てをする必要があります。

そのため、強制執行の対象となる債務者の財産を探す必要があります。対象の財産は、不動産、動産、債権の中から選んだり、組み合わせたりすることができます。たとえば、不動産登記簿を取り寄せて確認したり、給与や売掛金を調べたりしたうえで指定します。

強制執行による債権回収と言っても、債務者にどのような財産があるかを調べなければならない点は注意するべきです。

改正された財産開示手続きを利用する

なお、債務者の財産を調べるための財産開示手続きが2020年4月に改正されました。財産開示手続きが実効性あるものとなったため、強制執行の対象財産を探すために利用することが考えられます。
(参考)【2020年最新版】改正後の財産開示手続を利用した債権回収の方法

 

強制執行ができない場合がある

強制執行は裁判で負けたにも関わらず支払いをしない債務者を対象とするものです。任意に支払いをしない債務者が悪いとは言え、債務者が生活できなくなるような強制執行はできません。

たとえば、給与債権については1/4までしか差押えることができないとされています。また、生活に必要なものへの動産執行もできないとされています。このように強制執行ができない場合があり、全ての財産に対して強制執行ができるわけではない点はご注意ください。

 

強制執行で最終的な債権回収を図る

債権を回収するにあたり、払えるのに払ってくれない悪質なケースでは、断固強い態度で臨むことが大切です。最終的には強制執行という手もあります。強制執行は相手が拒否しても裁判所を利用して強制的に債権回収ができます。ただし、いくつかの種類があり、メリット・デメリットや注意点を踏まえて利用する必要があります。

 

最後にこの記事のポイントをまとめておきます。

  • 強制執行には不動産執行・債権執行・動産執行がある
  • 不動産執行・債権執行のメリット・デメリットを抑える
  • 強制執行で債権回収ができるのは債務名義がある場合だけ
  • 債務者の財産を調査しないと強制執行はできない

強制執行の流れやポイントについては、「強制執行の手続きや流れを分かりやすく解説」を参考にしてください。

強制執行で債権回収をするのであれば弁護士に相談することをおすすめします。当事務所は債権回収についての相談・見積りを無料で行っています。法律相談としてお受けできるかについて弁護士が電話で相談も行っておりますので、まずは一度お気軽にお問合せください。

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