仮差押えの要件や裁判所の書面審査について解説

仮差押えは裁判の結果が出る前に不動産や預金等の財産を仮に差し押さえる強力な効果を持っています。

さらに、仮差押えに成功すると相手方が任意に支払いを行ってくるという事実上の債権回収効果も見込めます。このように仮差押えは債権回収のための非常に強力な手段です。

(参考)仮差押えをわかりやすく解説|仮差押えの効力やメリット、手続きの流れ

 

仮差押えは債権回収の強力な手段ですが、厳格な要件が定められています。

この記事では売掛金や請負代金を支払わない取引先に対し、債権回収する際の仮差押えの要件や裁判所の書類審査について分かりやすく解説します。

 

1.     仮差押えの要件が問題になるケース

1.-(1)  仮差押えとは

 

仮差押えとは、勝訴判決を得る前に相手が不動産や預金等の財産処分をするのを防ぐための手段です。

判決前に裁判所に申立てを行って権利関係を保全することを法律上は民事保全手続と呼びます。民事保全手続には、仮差押え以外に仮処分という手続もあります。

 

仮差押えの要件は権利関係を保全するという趣旨から定められています。

 

1.-(2)  仮差押えの緊急性と要件の検討

 

取引先が何かと理由をつけてお金を支払わずに踏み倒そうとしている場合は、確実に債権回収をしたいものです。

どうしても取引先が支払いに応じないときは、最終的に訴訟起こして強制的に債権回収をする運びとなります。

 

しかし、例えば請け負った工事が指示通りでなかった等のように反論をされると、裁判所が訴訟の結論を出すまでに時間がかかります。

訴訟をして判決が出れば強制執行ができますが、訴訟中に相手が財産を処分することも考えられます。

 

勝訴すれば取引先の不動産や預貯金等の財産から債権を回収できると思っていても、判決前に相手が財産を処分すれば債権を回収できません。

いざ訴訟に勝って債権回収をしようとしたときには、相手から回収できる財産がないのでは勝訴判決の意味がありません。

相手に財産処分をさせないためにも、仮差押えや仮処分などの民事保全の手段を講じる必要があるでしょう。

 

このように仮差押えを行うときは緊急事態です。仮差押えは相手が財産を処分したり、隠したりする前に行う必要があります。

仮差押えの要件を検討するのに時間がかかっていては意味がありません。

もし確実に仮差押えを成功させたいのであれば、緊急事態であることを念頭に早期に債権回収に強い弁護士に相談することをおすすめします。

 

2.     仮差押えの要件① 被保全権利の存在

仮差押えの要件としては、被保全権利の存在と保全の必要性があります。ここからは、各仮差押えの要件について説明します。

 

2.-(1)  被保全権利の存在が仮差押えの要件とされる理由

 

仮差押えの要件のうち「被保全権利の存在」とは、仮差押えによって保全する権利が一応存在するらしいと裁判所に判断することを言います。

 

仮差押えは権利関係を保全するためのものであり、保全するべき権利(被保全権利)の存在が仮差押えの要件になります。

例えば、売掛金や工事代金等を請求する権利を持っていることが仮差押えの要件となっています。

 

2.-(2)  仮差押えの要件でポイントとなる疎明とは

 

被保全権利の存在が仮差押えの要件ですが、最終的に権利があるか否かは裁判で決められます。

従って、仮差押えの要件としては、被保全権利があることが一応確からしいことを示せれば良いのです。この一応確からしいことを疎明と言います。

裁判で勝訴判決を得るためには権利の存在を証明しなければなりません。しかし、権利が一応あるらしいと裁判所が判断すれば、仮差押えの要件は満たします。

 

例えば、請負代金債権を被保全権利とするときは、請負契約書や工事完了時の書類を提出することで、請負代金債権が一応あるようだと裁判所が判断すれば、被保全権利の存在という要件を満たします。

 

MEMO:疎明と証明

一応確からしいと裁判所が判断する程度の立証レベルを疎明と言います。勝訴判決を得るための「証明」に比べて、仮差押えの要件は立証の度合いが低い「疎明」で足りるとされています。

 

3.     仮差押えの要件② 保全の必要性

3.-(1)  保全の必要性が仮差押えの要件とされる理由

 

また、仮差押えは、勝訴判決を得るのを待っていると権利を保全できないために行われます。

従って、仮差押えの要件として、訴訟を起こす前に仮差押えによって権利を保全する必要性がなくてはなりません。

 

仮差押えの要件のうち「保全の必要性」とは、仮差押えをしないと勝訴判決を得ても強制執行が空振りに終わるおそれのあることをいいます。

例えば、相手方の目ぼしい財産は不動産しかないのに、これを転売されるおそれがあるため、民事保全をしないと勝訴判決を得ても強制執行できないというようなケースです。

 

3.-(2)  保全の必要性の要件を満たすポイント

 

保全の必要性という要件を検討するときは、客観的な財産状況と主観的な悪質性の観点から考えることができます。

 

まず、客観的な財産状況については、仮差押えの対象となるもの以外に目ぼしい資産がないことが考えられます。相手方はこの財産以外はないため、当該財産を隠されると強制執行ができないということが保全の必要性の要件を満たすことになります。

 

また、主観的な悪質性としては、相手方が財産を隠したり、処分したりする危険性を高めて保全の必要性を裏付ける事情です。

例えば、相手方が言い訳をしたり、逃げ回っており、このままだと唯一の財産を隠して逃げるなど、財産処理の兆候がある事実を訴えることで、仮差押えの要件を満たすと主張するのです。

 

4.     仮差押えの要件に関するポイント

4.-(1)  仮差押えの要件は書面審査により行われる

 

仮差押えの申し立てを行うときは裁判所へ申立書を提出します。

 

申立書には「仮差押えの対象財産」と仮差押えの要件である「被保全権利の存在および保全の必要性」について記載しなければなりません。

 

仮差押えの要件を満たしているかについては、原則として書面審査により行われます。もっとも、東京地裁では事務処理の便宜から裁判官面接が実施されています。

裁判官面接は、実務的な運用が非常に重要です。裁判官面接は原則として当日に行われますが、翌日・翌々月の午前10時又は午後1時30分に予約をすることもできます。仮差押えの要件を満たすかは緊急に検討が必要であり、多数の事件で公平性を保つためとされています。

 

4.-(2)  大きな障害となる担保提供の要件

 

書面審査・裁判官面接を経て仮差押えの要件があると認められたときは、担保提供を求められます。

 

被保全権利の存在と保全の必要性という仮差押えの要件があることに加えて、担保提供が必要なことが仮差押えの事実上の大きな障害です。

仮差押えは、裁判で相手が敗訴することを証明する前に財産を差押えしてしまうものです。従って、万が一間違いが起こったときは、相手から損害補償を請求されるおそれがあります(現実には損害賠償がされるケースは少ないです。)。

 

そのため仮差押えを行うときは担保金を用意する必要があります。

担保金は、保全対象や手続きの種類などによって金額が異なるため、ある程度の金額がかかることを覚悟しなければならないでしょう。一般的に担保金は、仮差押え対象財産の2~3割ほど収めるケースが多い傾向です。

 

5.     仮差押えは緊急の対応が必要―要件を満たすかを事前にチェック

 

仮差押えは相手方が財産を隠したり、処分したりする前にしなければ手遅れになってしまうことも考えられます。

 

相手方が任意の支払いに応じず仮差押えを行うときは速やかに申立書の準備をする必要があります。仮差押えの要件を満たすかは事前に十分チェックする必要があるので、早めに債権回収に強い弁護士に相談することをおすすめします。