元請け業者が工事代金を支払ってくれないというのは、下請け業者からすると資金繰りにも影響する一大事です。一刻も早く代金を回収したいところですが、そのための方法が分からず困っている人も多いかもしれません。
本記事では、元請け業者が特に特定建設業者であった場合、下請け業者が代金を回収するためにとることのできる方法について、それぞれのメリットやデメリットを解説します。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
1. 特定建設業者の代金支払期日の特例
1.-(1) 特定建設業者とは
特定建設業者というのは、一般建設業者よりも高額な代金の工事を、下請けに対して任せることができる元請け業者のことを言います。
高額な代金とは具体的に言うと、下請け工事1件あたりの金額が4,000万円以上の場合です。そして建築一式工事の場合には6,000万円以上のケースを指します(※平成28年6月1日より対象金額が引き上げられました)。
(外部リンク)国土交通省「建設業の許可とは」
特定建設業者は下請け業者に出せる金額が高額な分、資産などに関して一般建設業者よりも許可を得るための要件が厳しくなっています。
1.-(2) 下請け業者の保護
下請け代金の支払いに関わることについては「下請法」という法律があります。しかし、建設工事に対しては下請法ではなく、建設業法の規定が適用されます。
さらに特定建設業者の場合には、下請け業者を保護するために一般建設業者に対するよりも厳しい特例が設けられています。
この特例では、「下請け人からの工事引き渡しがあった日から50日以内に下請け代金を支払わなければならない」と定められています。
また、50日以内であればいつでも良いというわけではなく、「できるだけ早いうちに」支払う努力義務も定められています。
特定建設業者がこの期間内に下請け代金を支払わなかった場合には、51日目から支払った日までの期間、遅延利息が発生します。遅延利息の利率は年間14.6%です。
但し、下請け業者も特定建設業者であったり、資本金が4,000万円以上の法人の場合にはこの特例は適用されません。
2. 元請け事業者が代金を支払わないときの回収方法
前述のように、特定建設業者には支払期日の特例があるにも関わらず、下請け業者が特定建設業者から代金を払ってもらえていない時は、どのようにすれば良いのでしょうか。
債権回収の方法としては、1つは支払督促の手続きをとること、そしてもう1つは訴訟手続きをとることが考えられます。
しかし何らかの手続きをとるとなると、そのための手間や費用が気になるところです。2つの手続きはどの位の手間がかかるものなのか。そしてどのような点で異なるのかについて、以下から解説していきます。
3. 支払い督促による債権回収
3.-(1) 支払督促とは
支払督促というのは簡単に言うと、お金を支払うよう元請け業者に求めることを文書で行う手続きです。簡易裁判所の窓口で申請を行います。
(外部リンク)裁判所「支払督促」
しかし、裁判所で手続きすると言っても裁判官は関与しません。督促の内容を読んで支払督促を送付するかどうかを判断したり、実際に送付の手続きをとってくれるのは裁判所の書記官です。
支払督促を行うためにはまず、申立人が督促状を作成します。その上で裁判所の窓口に行き、支払督促の手続きを依頼します。窓口では、申立人が作成した督促状に記入されている内容が、督促を行うに値するかどうかを判断します。
3.-(2) 支払督促のメリット
督促に相当すると判断された場合には、督促状を相手方に送付します。この、督促に相当するかどうかの判断は、書面の内容のみでの判断です。
従って、具体的な証拠は提示する必要がなく、契約書がない場合にも支払督促を行うことができます。
裁判ではありませんから、督促後に裁判所に出向いて、改めて言い分を主張するというような必要もありません。このように、支払督促には手続きが簡単で費用がかからないというメリットがあります。
また、督促を送付するために証拠を提示する必要がありませんから、契約書や約款を交わしていない時には利用しやすいということも利点です。
3.-(3) 支払督促のデメリット
一方でデメリットもあります。それは、相手が異議申し立てをすると無効になるという点です。
支払督促を受け取った相手方は、2週間以内であれば異議申し立てできるようになっています。もし異議を申し立てれば、その後は通常訴訟に移行してしまうため、支払督促の意味はなくなってしまいます。
4. 訴訟手続による債権回収
元請け事業者が工事代金について難癖をつけて支払ってくれないときは代金回収のために訴訟手続きをとるという方法もあります。
これはつまり、民事訴訟を起こすということです。支払督促と同じように裁判所が窓口となりますが、提出する書類の種類は「訴状」となります。
4.-(1) 訴訟手続のメリット
訴状が受け付けられれば、その後は裁判が始まり、裁判所で双方が言い分を主張するための口頭弁論が開かれます。
最終的には訴えを起こした原告に対して、勝訴か敗訴かの決定が下されることになります。必ず何らかの決定が下され解決に至るというのは、メリットとなります。
とくに元請け事業者がお金を支払わない理由が、貴社の工事に不備があったと難癖をつけている場合などは訴訟手続で決着をつけることが有効な手段となり得ます。
元請け事業者に十分な財産があれば、勝訴判決を得て強制執行を行うことは容易です。また、勝訴判決がでれば相手方がお金を支払うことも期待できます。
事案にもよりますが、元請け事業者に対する代金回収の事案では、早期に訴訟手続に移行する方が良い事案も少なくありません。
4.-(2) 訴訟手続のデメリット
しかし、裁判で勝つためには契約書など、言い分の根拠となる契約書を必ず提示しなければなりません。証拠関係が十分でないと敗訴する可能性もあります。
また、裁判で決着がつくまでに一般的には長い時間がかかります。費用も多額になりがちですから、訴訟手続きをとる前にはそのようなデメリットもよく考慮した上で判断することが重要になります。
訴訟手続を行うときは支払督促などと異なり、基本的には弁護士に依頼することになります。もっとも、何でも訴訟をするのが良いとは限らず、訴訟手続のメリット・デメリットを考慮して助言をしてくれる弁護士であれば頼もしい存在です。
債権回収に強い弁護士であれば、訴訟手続以外に貴社にはなかった債権回収の視点を与えてくれるかもしれません。まずは、無料相談によって、そもそもどのような方針が良いのかを確認するのが良いでしょう。
5. 特定建設業者の立替払いについて
工事代金を受け取れず、そのために従業員に給料を支払うことができなくなっている時には、「特定建設業者の立替払い」というものも活用できます。
これは建設業法に定められている規定で、特定建設業者に対して「支払を遅滞した賃金のうち当該工事における労働の対価として適正と認められる賃金相当額を立替払いすることその他の適切な措置を講ずることを勧告すること」が求められています。
つまり、工事に該当する部分の従業員の賃金に関しては、未払いが起きた場合、特定建設業者は立替えて支払う必要があります。
6. まとめ
特定建設業者からの代金を回収する時には、「建設業法」における特定業者の特例に基づいて、遅延利息も含めて特定建設業者に請求することができます。
そのための主な方法には支払督促と訴訟手続きの2つがあり、どちらも裁判所で手続きができます。手続きにかかる時間や費用・証拠の要不要などにおいて、それぞれにメリット・デメリットがありますので、どちらが効果的かを考えた上で適切な方法をとるようにしましょう。