債権回収を様々な方法で行っても相手方が返済しないときは、最終的に裁判(民事訴訟)で債権回収を図ることになります。
裁判や訴訟という言葉は誰でも聞いたことはあると思いますが、具体的にどのようなものかを正確に知っている方は少ないでしょう。
また、一口に裁判(民事訴訟)と言っても、債権回収だけでなく、離婚、相続、損害賠償等の分野は様々です。
本記事では、債権回収に悩む経営者様を念頭において、とくに債権回収の裁判(民事訴訟)にフォーカスして分かりやすく解説を行います。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
Contents
1. 裁判(民事訴訟)で債権回収を行うメリット
債権回収における裁判(民事訴訟)とは、債権を支払うように裁判所に申立てを行って、あなたと相手方の言い分を主張・立証した上で裁判所が債権を支払うべきかを最終的に判断するものです。
裁判(民事訴訟)は、その他の手段で債権回収を行っても効果がないときの最終手段ですが、以下のようなメリットがあります。
1.-(1) 裁判であれば強制的に解決を図ることができる
裁判(民事訴訟)を提起すると相手方に訴状・呼出状が送られることになります。相手方が逃げ回っていたため債権回収ができないケースでも、裁判(民事訴訟)は無視することが難しいです。
もし相手方が裁判(民事訴訟)を完全に無視した場合は勝訴判決を得ることができます。
また、商品・工事に不満があるため代金を支払わないと反論されていても、裁判(民事訴訟)であれば相手方の反論に正当性があるかを裁判所が判断してくれます。
従って、相手方が債権を支払わない理由がどのようなものであれば、裁判(民事訴訟)を起こせば強制的に解決を図るメリットがあります。
1.-(2) 勝訴判決を得ることで強制執行ができる
裁判(民事訴訟)で言い分が認められて勝訴判決(仮執行宣言付判決・確定判決)を得れば強制執行を行うことができます。
強制執行手続を行うことで相手方の財産を差し押さえて強制的にお金を回収することができます。
なお、強制執行の差し押さえは、仮差押えよりも幅広く認められます。従って、仮差押えが空振りに終わっても強制執行の差し押さえに成功できる場合もあります。
また、勝訴判決を得て強制執行を行うときは、どのような財産を差し押さえるかを選ぶことができます。
債務者は、金融機関への預金債権や取引先への代金債権等を差し押さえられると金融機関や取引先からの信用を失います。
そのため、勝訴判決を得た段階で強制執行を回避するために任意の支払いに応じるケースも少なくありません。支払いを事実上強制できるメリットもあります。
1.-(3) 所在不明の場合でも公示送達が利用できる
裁判所での手続は、相手方の住所が分からないと利用できない場合があります。しかし、裁判(民事訴訟)を提起する場合は、相手方の住所が不明な場合でも公示送達によって手続を行うことができます。
公示送達とは、相手方の住所が不明であるため裁判に関する書類を送付できないときに、裁判所に刑掲示を行い、かつ官報掲載することで、相手方に書類を送ったとみなす手続です(民事訴訟法110条~)。
(参考)公示送達 – Wikipedia
裁判(民事訴訟)を利用すれば相手方の所在不明で債権回収ができないケースでも手続を進められるメリットがあります。
2. 裁判(民事訴訟)による債権回収の流れ
2.-(1) 訴状の作成・提出
裁判(民事訴訟)を起こすためには裁判所に訴状を提出する必要があります。訴状は、法律上の記載事項が定められており、どのような事実が認められれば勝訴できるかを記載する必要があります。
例えば、請負代金や工事代金の債権回収であれば、どのような契約内容であったのか、工事をいつ完了させたのか、いつ代金が支払われるはずであったのか等を記載します。
作成した訴状は管轄裁判所に提出します。債権回収の裁判(民事訴訟)であれば、原則として貴社の所在地を管轄する裁判所が管轄裁判所になるのでご安心ください。
また、裁判所(民事訴訟)を提起するときは訴訟費用を支払わなければなりません。例えば、500万円の債権回収であれば印紙代3万円+数千円の郵便切手代が必要です。
2.-(2) 証拠の提出
裁判(民事訴訟)においては、裁判所が証拠に基づいて最終的な判断をします。通常は訴状を提出すると同時に手持ちの有力な証拠を提出することが一般的です。
例えば、契約書、納品書、検品報告書、領収書等の請求する債権の根拠となるような書類は予め提出しましょう。録音データやPC画面等は基本的に書面化して提出することになります。
どのような証拠を提出するべきか、特殊な証拠の提出方法に迷ったときは弁護士に相談することをおすすめします。
なお、債権回収の裁判(民事訴訟)を弁護士に依頼するときは、関係しそうな資料は全て弁護士に渡して選別して貰うべきです。
一見すると関係がなさそう又は証拠価値が薄いと思われても専門家の目から見ると重要な証拠であることもあるからです。
証拠はどのような項目で、どのような趣旨で提出したのかを証拠説明書にまとめます。証拠説明書は多数の証拠を一覧化して裁判官に分かり易く証拠関係を伝えるためのものです。
2.-(3) 裁判期日の実施
裁判(民事訴訟)の提出書類に不備がなければ、約1週間程度で初回の裁判期日(第1回口頭弁論期日)を決める連絡がなされます。
初回の裁判期日は概ね1か月程度先の日時を提示されます。
なお、初回の裁判期日は相手方(被告)に予定を聞かないで決められます。そのため、初回の裁判期日は相手方(被告)が出頭しないこともあります。
相手方(被告)が何ら反論の書面も出さずに出頭しないままであれば勝訴判決が出されます。債権回収の裁判(民事訴訟)では、債務者に反論材料がないため、とくに争われずに勝訴になることも少なくありません。
他方で、相手方が何かしらの反論をしてきたときは、何回か裁判期日が実施されます。裁判期日では、お互いが債権の存在関する主張や証拠を書面で提出します。
最後まで徹底的に争われたときはドラマで見るような証人尋問を行うこともあります。
2.-(4) 裁判の終結①:和解の成立
ほとんどの裁判は和解か判決によって終わります。債権回収の裁判(民事訴訟)であれば和解で終結することも非常に多いです。
とくにお金がないため相手方(被告)が債権回収から逃げ回っていたようなケースでは、裁判(民事訴訟)を起こされると「お金がないので分割払いをしたい」と和解の申入れがされることがあります。
和解の話し合いによって債権の支払金額・支払方法が合意できれば和解調書を作成します。和解調書通りに支払いがなされなければ強制執行ができます。
2.-(5) 裁判の終結②:判決による決着
相手方が工事・商品に不備があるため代金を支払わないと主張して、徹底的に争ってきたようなケースでは判決によって裁判が終結します。
裁判所が双方の主張と証拠から、債権を支払うべきか、どの範囲の債権が認められるかを判断します。
なお、お互いが争っているようなときでも判決が出る前に和解をするよう裁判官から勧められることもあります。
勝訴判決を得れば強制執行を行うことができます。なお、強制執行については以下の記事を参考にしてください。
3. 債権回収の裁判(民事訴訟)のリスク・デメリットとQ&A
裁判(民事訴訟)を起こすときはリスクやデメリットもあると感じられるかもしれません。裁判(民事訴訟)で債権回収を行う時に不安に感じられる点やよく質問を受ける点について解説します。
3.-(1) 裁判をすると時間がかかるのではないですか?
裁判に要する時間はケースバイケースであり、たしかに時間がかかるときもあります。例えば、工事・商品に不備があり代金を支払う義務がないと債権の存在を争われたときは1年程かかるときもあります。
しかし、債権回収の裁判(民事訴訟)では、相手方に有力な反論がないケースも少なくありません。このような場合は3か月から半年程度で終わることもあります。
裁判に要する期間が気になるようであれば、弁護士に見通しを聞くことをおすすめします。
3.-(2) 裁判をするとお金がかかるのではないですか?
裁判(民事訴訟)を起こすときは裁判費用と弁護士費用がかかります。
実は、裁判費用はさほど高額ではありません。例えば500万円の債権回収を行うようなときであっても、印紙代3万円+郵便代数千円程度であり、必要経費と言えるでしょう。
他方で、弁護士に依頼すると弁護士費用がかかります。弁護士費用は法律事務所によって様々ですが、無料相談等で見積りを貰うことをおすすめします。
4. 裁判(民事訴訟)は弁護士に依頼するべきか?
自社で債権回収を行うことを考えている場合でも、裁判(民事訴訟)になれば弁護士に依頼するか迷われるかもしれません。
結論から言うと裁判(民事訴訟)を起こすのであれば、弁護士に依頼することをおすすめします。
4.-(1) 最終的な決着がつくため失敗をすると取り返しがつかない
債権回収のために裁判(民事訴訟)を行ったときは、最終的に裁判所が主張や証拠を見て債権の有無や金額を判断します。
裁判所の判断に不服があれば控訴等の手段がありますが、基本的には第一審が勝負です。もし敗訴判決が出て控訴から弁護士に依頼しようとしても断られるケースが少なくありません。
裁判(民事訴訟)を自社で行って失敗をすると取り返しがつかないため弁護士に依頼する方が良いでしょう。
4.-(2) 様々な書面作成のために膨大な時間がかかる
裁判(民事訴訟)は書面の形式や手続が厳格に定められています。裁判所のルールを守った上で、様々な書面(訴状、証拠説明書、準備書面)を作成しなければなりません。
裁判で使う様々な書面を一から調べて作成するのには膨大な時間がかかります。無駄な手間や時間を割くよりも、裁判(民事訴訟)は債権回収のプロである弁護士に依頼して本業に集中したいと考える企業が多いようです。
4.-(3) 裁判所から弁護士を依頼するよう説得される
裁判(民事訴訟)を自分でやろうとしても、裁判所から弁護士を依頼するように説得されることもあります。裁判所としても「素人が独特のやり方で裁判をやるよりも、弁護士に整理して欲しい」と考えるのです。
もちろん裁判所から言われても弁護士に依頼する義務はありません。但し、裁判所が説得をするのは何かしら裁判のやり方に問題があるからです。
自分で裁判を続けると不利な結論になることが想定されるため、裁判所から弁護士を付けるように勧められたときは弁護士に相談した方が良いでしょう。
債権回収の無料相談を利用する
弁護士に依頼するか悩んだときは無料相談を利用することをおすすめします。債権回収に力を入れている弁護士は無料相談を行っていることも少なくありません。
私たちも債権回収について無料で相談を行っております。法律相談と見積りは無料です。法律相談は24時間365日受け付けておりますので、もし弁護士に依頼しようか迷ったときは気軽にご連絡ください。
債権回収を弁護士に無料相談をするときの流れ、弁護士の選び方や注意点については下記記事をご覧ください。
(参考)債権回収弁護士.com|債権回収弁護士の選び方 全知識34項目。
5. 裁判(民事訴訟)は債権回収の最終手段
裁判(民事訴訟)は債権回収の方法の中でも最終手段です。相手方が逃げ回っていても強制的に手続を行うことができ、勝訴判決を得れば強制執行もできます。
もっとも、裁判(民事訴訟)は裁判所が主張・証拠から判断をするため失敗をすると取り返しがつきません。
裁判所のルールに従った上で裁判所を納得させる書面を作るのには時間やテクニックが必要です。
できるだけ自分で債権回収を行おうと考えても、裁判(民事訴訟)の段階では弁護士に依頼する方がほとんどです。もし裁判(民事訴訟)で債権回収を行おうと考えたときは、一度は弁護士に相談することをおすすめします。