内容証明は、確かに文書を送付したという証拠を残すことができる郵便です。
単なる郵便の制度なのですが、債権回収に利用すると債務者にプレッシャーを与える効果が期待できます。
また、内容証明の効力として一時的に債権の消滅時効の完成を止める効果があります。
売掛金や請負代金等の債権が消滅時効にかかりそうな時に、時効期間を延長する手段として利用できます。その内容証明の効力について詳しく見てみましょう。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
1. 内容証明郵便とは何か?
1.-(1) 内容証明郵便とは
内容証明郵便とは、郵便局が「送付した文書の内容」「送付した年月日」「文書の差出人」「宛先」について証明してくれる制度です。
つまり、郵便局が、「確かに何年何月何日に、このような内容の文書を、A社が、B社に宛てて送付しています」、ということを証明してくれることが内容証明郵便の効果です。
請負代金や売掛代金等の債権回収のために利用する際には、一般的には、内容証明郵便にプラスして「配達証明」というサービスも利用します。
1.-(2) 配達証明とは
配達証明は、郵便局が、何年何月何日に確かに配達しましたという証明をしてくれる制度です。郵便は送付しても相手方に到達するとは限りませんので、内容証明郵便を送付したというだけでは相手に文書が届いたという証拠にはなりません。
内容証明郵便に配達証明を付けることで、内容証明郵便の文書が送付され、その文書が相手に届いている、という証拠を残すことができます。
1.-(3) 内容証明郵便は債権の存在を証明する効果はない
配達証明付内容証明郵便(以下「内容証明」といいます。)で郵便局が証明してくれるのは、そのような文書が送付されたという事実であって、文書の内容が真実であるかどうかではありません。
つまり、内容証明を送ったからと言って、差出人の請求権が正当化されるというような効果はありません。
内容証明郵便に特別な法的効果がないと言われるのは、内容証明郵便を送付することで無視した場合に支払義務が生じるとか債権の存在が証明されるとかの効果があるわけではないからです。
2. 内容証明郵便を使うべき場合
内容証明は、何らかの法律的な意思表示を行う時に、それが相手に届いた証拠を残しておきたい場合に多く用いられます。
例えば、「契約解除の通知」「債権譲渡の通知」「消滅時効の援用通知」などです。
また、債権回収に内容証明を用いることも良くあります。これは、内容証明による請求で相手にプレッシャーを与えたり、時効中断に内容証明の効力を利用したりすることができるからです。
2.-(1) 内容証明郵便で相手方にプレッシャーを与える
内容証明の効力としては、相手にプレッシャーを与える効果と、消滅時効中断の効果が考えられます。内容証明は単なる郵便ですから、相手にプレッシャーを与える効果と言っても、法律的にそのような効果があるというわけではありません。
しかし、相手に、「わざわざ内容証明のような証拠が残る郵便で請求書を送付してきたということは、そろそろ本気で債権回収を図ってきているし、ひょっとすると訴訟も検討しているかもしれない」、という心理的なプレッシャーを与えることができます。
相手に与えるプレッシャー効果は、内容証明が代理人弁護士の名前で出された時に、より大きなものになります。自社名義の内容証明郵便は無視されても、弁護士名義の内容証明郵便を送ったらすんなり債権回収に成功したということも少なくありません。
代理人弁護士からの請求ということであれば、弁護士は訴訟の専門家なので、弁護士からの請求を無視すれば裁判を起こされることを相手方は意識します。
このため、他の債権者に優先して支払ってくれる可能性が増加します。
弁護士をつけずに、自社(自分)の名前で内容証明により請求書を送ることもできますが、この場合は、相手がプレッシャーを感じるかは、ケースバイケースです。
確かに、普通郵便よりも高い費用がかかる内容証明郵便で請求書や督促状が届き、そこに「お支払いが無い場合は訴訟を提起させていただきますのであしからずご了解ください」などと記載してあれば、相手はプレッシャーを感じるかもしれません。
しかし、同時に、まだ弁護士などの専門家に依頼していないという情報を相手に与えてしまいますので、腹の座った相手であれば、「まだ大丈夫」と考える可能性があります。
また、行政書士に文面を作成してもらい、行政書士の名前の入った内容証明を出すことも考えられます。
この場合も行政書士は裁判に関する業務を扱えませんので、相手に「行政書士に相談している段階なら、裁判はされないだろう」、という印象を与えてしまう可能性があります。
2.-(2) 内容証明郵便で時効期間を延長する
内容証明の効力としては、相手にプレッシャーを与える効果のほか、消滅時効を延長する効果が考えられます。
消滅時効というのは、一定の期間が経過すると権利が消滅してしまう制度です。債権が消滅時効にかかると、相手は支払い義務が無くなりますので、債権を回収することができなくなります。
消滅時効にかかる期間は、通常の商取引の場合は5年と規定されているものが多いのですが、請負人の工事に関する債権は短期消滅時効によりわずか3年で時効にかかります(2020年に改正民法が施行されると、この短期消滅時効は無くなります)。
権利が消滅するのを防ぐためには、消滅時効を中断させる必要があります。時効の中断事由には、「相手方に債務を承認させる」「裁判上の請求をする」「差押え・仮差押え・仮処分」の3つの方法があります。
相手方に債務を承認させるというのは、例えば、相手方に債務を認める書面を一筆書いてもらう方法があります。また、相手方が一部でも債務の支払いをすれば、債務の承認となり時効が中断します。
相手方に債務を承認させることが難しい場合は、時効中断するには、裁判上の手続きをしなければなりません。しかし、弁護士に依頼して訴訟の準備するのには、それなりの時間がかかります。
そこで、民法の「催告」という制度を利用することになります。催告をすれば、請求書を送付しただけで、その後6ヶ月間だけ時効の完成を止めることができます(民法153条)。催告は、通常、証拠を残すために内容証明で行います。
つまり、時効が完成してしまいそうな切迫した状況の場合は、まずは、内容証明による催告で時効完成を止めます。そして、弁護士等に相談し、6ヶ月以内に正式な裁判上の請求をすることで、請求権が消滅時効にかかるのを防ぐことができます。
2.-(3) 内容証明郵便で遅延損害金を発生させる
また、債権の発生原因にもよりますが、内容証明郵便で遅延損害金を発生させることも考えられます。
債権によっては請求をした時点から遅延損害金が生じることがあります。遅延損害金は少なくとも年利5%なので、低金利の現代からするとかなり高い利率です。
内容証明郵便を送付することで請求した証拠を残しておき、遅延損害金も合わせて請求することが可能になります。
相手方としても、裁判で争って最終的に敗訴すれば遅延金を加算した金額の支払義務が生じます。
遅延損害金が生じることは相手方にプレッシャーを与えて債権支払いを促す事実上の効果もあると言えます。
3. まとめ
弁護士名での内容証明による請求は、相手にプレッシャーを与えることができるので、債権回収の選択肢の一つとなり得ます。
また、時効期間を延長するためや遅延損害金の発生のために内容証明郵便を利用することができます。
配達証明付の内容証明郵便は、郵便を送付した事実や内容、相手方に郵便が到達した事実を証明するだけですが、事実上の効果も含めると有益な手段です。
他方で、内容証明郵便は相手方に様々な情報を与えます。
法的に筋が通らない内容を記載すれば、相手方に貴社が債権回収の準備が十分整っていないことを伝える結果になります。また、場合によっては不利な内容を記載してしまい、後々の裁判で悪影響が生じないとも限りません。
内容証明郵便を使うときは効果やリスクを考えてここぞというタイミングで使う必要があります。
貴社が内容証明郵便を利用して債権回収を行う場合は、予め債権回収に強い弁護士に無料相談することも考えられます。